事故当時未婚の女性の逸失利益が兼業主婦としての金額で認められた事例(併合11級認定・判例紙掲載)
弁護士の桑原です。
先日、私の解決した交通事故事件が、交通事故や保険問題に特化した裁判例の情報誌である、「自動車保険ジャーナル」に掲載されました。(詳しくは交通事故専門の判例雑誌に解決した事例が掲載をご覧ください。)
今回は、この事件が、どのような内容であったのか、何が問題となったのかについて詳しく解説します。
事案の概要
福岡県在住の被害者が信号機による交通整理の行われている交差点を自転車に乗車して横断歩道上を通行していたところ、被害者の対面から左折進行してきた乗用自動車と衝突し、第1腰椎圧迫骨折等の怪我をしたという事故です
争点
今回の裁判で争点となった点は、いくつかありますが、その中の一つとして、逸失利益算定にかかる基礎収入をどう見るかという点がありました。
- 逸失利益とは
逸失利益とは、事故で後遺症が残ってしまった場合に、当該後遺症により、将来生じるであろう収入の減少をいいます。
逸失利益は、【基礎収入】×【労働能力喪失率】×【労働能力喪失期間】で計算します。
【基礎収入】とは、事故がなければ将来得ていたであろう収入です。
【労働能力喪失率】とは、後遺症による収入への影響割合です。後遺障害等級に応じてある程度目安があります。
【労働能力喪失期間】とは、事故がなければ就労して収入を得ていたであろう期間です。一般的に、67歳まで就労する前提で計算することが多いです。
今回、争点の一つとなった【基礎収入】ですが、原則として、事故前年の実収入を採用するのですが、将来において、事故がなければ事故前年の実収入よりも高い収入を得られる蓋然性が立証できれば、例外的に、事故前年の実収入以上の基礎収入が認定されます。
被害者は、本件事故当時、単身生活者でヘルパーとして稼働しており、事故前年の実収入は224万円でした。
被告は、逸失利益の算定について、上記の原則どおり、基礎収入を事故前年の実収入で計算すべきと主張していました
。
これに対し、当方は、事故当時、被害者は、ヘルパーとして稼働しつつも、婚姻を予定しており、事故がなければ、ヘルパーの仕事に加えて家事労働にも従事していたとして、いわゆる兼業主婦として女性の平均賃金である353万円を基礎収入として計算すべきと主張していました。
裁判所の判断
裁判所は、「原告は、本件事故当時からEと婚姻する意志を有し・・・本件事故の治療を終えた平成26年9月頃から同居を開始してその後に現実に婚姻したことからすれば、原告は、本件事故時において、近い時期にはEと婚姻する蓋然性があった」とし、「本件事故がなかったとすれば、訪問ヘルパーの職に従事しながらも家事にも従事し、いわゆる兼業主婦として稼働していたであろうと認められる」として、「賃金センサス平成25年女性全年齢平均賃金は353万9300円であり、原告のヘルパーとしての平成24年収入額224万7590円を上回るから、家事従事者として前者の金額を基礎収入とみるのが相当である」と、当方の主張を認める判断しました。
まとめ
逸失利益算定の基礎収入や労働能力喪失率をどう計算するかは、補償金額に与える影響が大きく、具体的な事実関係を丹念に主張立証することが大事です。
また、今回の事案は、基礎収入をどうするのかといった点以外にも複数の争点があり、例えば、被害者が負った後遺障害である脊柱変形については逸失利益がそもそも生じないではないかといった争点、事故の過失割合(被害者にも過失があるのか)といった争点、どこまでが事故による怪我だったのかといった争点などもありました。
そのため、訴訟提起してから判決までに約2年を要し、長い闘いとなりましたが、被害者の方も、辛抱強く、粘り強く、一緒に頑張ってくださり、無事に解決に至ることができました。