はじめに
交通事故で大切な家族を亡くしたり、ご家族が高次脳機能障害などの重大な障害を負ったりすると、事故後もさまざまな問題に向き合わなければなりません。
治療や介護、仕事や生活への影響、加害者側との示談交渉など、考えなければならないことは数多くあります。
その一方で、
- 加害者について、これからどのような手続が進むのだろう
- 家族を失ったのに、加害者がどういう処分を受けるのか分からない
- 事故について、自分たちの気持ちや被害の大きさを伝えることはできないのだろうか
と感じることもあるのではないでしょうか。
交通事故では、被害者や遺族が加害者側に損害賠償を求める「民事上の手続」とは別に、加害者の刑事責任を問うための「刑事手続」が行われることがあります。
刑事手続とは、簡単にいうと、犯罪を犯したとされる人について、捜査や裁判を通じて、その刑事責任を判断するための手続です。
そして、一定の交通事故事件では、被害者や遺族がこの刑事裁判に関わることができる制度があります。
それが「被害者参加制度」です。
被害者参加制度を利用すると、一定の要件のもとで、刑事裁判に出席したり、検察官の訴訟活動について意見を述べたり、証人に質問したり、被告人に質問したりすることができます。
ただし、被害者参加制度を利用することは、被害者やご家族にとって決して小さな負担ではありません。
刑事裁判の内容を理解し、検察官との打合せを行い、必要に応じて質問や意見を準備するなど、精神的にも時間的にも負担が生じることがあります。
そのため、被害者参加制度を利用する場合には、弁護士に手続きや刑事裁判への対応を依頼し、ご家族自身の負担をできるだけ軽減することも一つの方法です。
この記事では、交通事故の被害者や遺族の方に向けて、
- 被害者参加制度とはどのような制度なのか
- 誰が利用できるのか
- 刑事裁判で何ができるのか
- そして弁護士に依頼することでどのような負担を軽減できるのか
について、分かりやすく解説します。
交通事故の被害者・遺族は、加害者に対する刑事手続に関われるのか?
交通事故に遭った場合、多くの方がまず思い浮かべるのは、治療や損害賠償の問題かもしれません。
しかし、事故の内容によっては、加害者について刑事事件として捜査や裁判が行われることがあります。
ここで知っておきたいのが、交通事故における「民事」と「刑事」は別の手続であるということです。
民事と刑事は別の手続です
民事上の手続では、交通事故によって生じた損害について、加害者側に損害賠償を求めることになります。
一方、刑事手続では、事故を起こした加害者について刑事責任を問うための捜査や裁判が行われます。
そのため、「損害賠償の話し合いをしているから、刑事手続も自分たちが関わる必要はない」とは限りません。
刑事手続についても、被害者や遺族としてどのように関わるのかを考える必要があります。
刑事裁判では何が判断されるのか
刑事裁判では、検察官が起訴した犯罪事実について、被告人が有罪かどうかなどが審理されます。
交通事故の場合にも、事故の内容や被害の程度、その他の事情を踏まえて刑事裁判が進められることがあります。
被害者や遺族として刑事裁判に関わりたい場合には、どのような制度を利用できるのかを確認することが大切です。
被害者や遺族が刑事裁判に関わることができる「被害者参加制度」
被害者参加制度とは、一定の犯罪について、被害者やその遺族などが、裁判所の許可を受けて「被害者参加人」として刑事裁判に参加できる制度です。
交通事故事件についても、一定の事件が対象となります。
被害者参加制度を利用することで、単に刑事裁判を傍聴するだけでなく、法律で認められた範囲で刑事裁判に関与することができます。
ただし、対象となる事件や参加できる人には法律上の要件があります。
「交通事故に遭ったから必ず利用できる」というものではないため、個別の事件について確認することが必要です。
被害者参加制度を利用すると何ができる?
被害者参加人として参加すると、一定の要件のもとで、次のようなことができます。
刑事裁判に出席する
被害者参加人として、原則として公判期日に出席することができます。
検察官の訴訟活動について意見を述べる
検察官の訴訟活動について意見を述べたり、説明を受けたりすることができます。
一定の事項について証人に質問する
法律上認められた範囲で、証人に質問することができます。
ただし、どのような内容についても自由に質問できるわけではありません。
被告人に質問する
一定の要件のもとで、被告人に質問することができます。
被害者や遺族にとって、事故について確認したいことや、被告人に伝えたいことがある場合、この制度によって一定の形で刑事裁判に関与することができます。
事実や法律の適用について意見を述べる
一定の要件のもとで、事実や法律の適用について意見を述べることもできます。
ただし、被害者参加人が裁判所に代わって判決を決めることができるわけではありません。
被害者参加制度と「意見陳述」は同じではありません
被害者や遺族が刑事裁判で自分の思いを伝える制度として、「心情等の意見陳述」(刑事訴訟法292条の2)があります。
これは、被害者参加制度とは別の制度で、被害者等が、犯罪にあってどれくらい辛い思いをしたのかという心情や被害感情など、被害に関する心情や事件についての意見を述べることができます。
一方、被害者参加制度では、裁判所の許可を受けて被害者参加人となり、公判への出席、検察官への意見、一定の証人への質問、被告人への質問など、より広い範囲で刑事裁判に関与することができます。
そのため、「自分たちの気持ちを裁判で伝えたい」のか、「刑事裁判に被害者参加人として関わりたい」のかによって、検討する制度が変わる可能性があります。
交通事故で被害者参加制度を利用できるのは誰?
被害者参加制度の対象となる人については、法律上の要件があります。
交通事故によって被害者が亡くなった場合には、一定の要件のもとで、被害者の配偶者、直系の親族、兄弟姉妹などが対象となります。
また、被害者が生存している場合でも、事件の内容や被害者の状態などによって、一定の親族が対象となる場合があります。
特に、高次脳機能障害などの重大な障害を負ったケースでは、「被害者本人が刑事裁判に参加することが難しい」という問題が生じることがあります。
このような場合に家族が被害者参加人となることができるかについては、被害者の状態や親族関係、事件の内容などによって判断が異なるため、個別に確認する必要があります。
被害者参加制度を利用するにはどうすればいい?
被害者参加制度を利用するには、一定の手続きが必要です。
基本的には、事件を担当する検察官に被害者参加について申し出ることから始まります。
その後、所定の手続を経て、裁判所が被害者参加人として参加することを認めることになります。
そのため、「裁判が始まってから考えればいい」とは限りません。
刑事手続がどの段階まで進んでいるのかを確認したうえで、早めに利用を検討することが大切です。
被害者参加制度は、弁護士に任せることができます
被害者参加制度があると分かっても、
- 自分で裁判に出なければならないのでは?
- 法律のことが分からないのに、被告人への質問などできない
- 事故のことを何度も思い出しながら刑事裁判に対応するのはつらい
と感じる方もいらっしゃるでしょう。
実際、重大な交通事故の被害者やご家族にとって、刑事裁判への参加は精神的にも時間的にも負担になることがあります。
そこで、被害者参加制度を利用する場合には、弁護士に刑事裁判への対応を依頼することができます。
弁護士に依頼することで、ご家族の負担を軽減できます
弁護士に依頼した場合、事件の内容やご本人・ご家族の希望を踏まえて、刑事裁判にどのように関わるのかを一緒に整理することができます。
また、検察官とのやり取りや、裁判に向けた準備、質問や意見を述べる際のサポートなど、法律的な対応を弁護士に任せることで、ご家族自身が刑事手続に対応する負担を軽減できる場合があります。
もちろん、弁護士に依頼したからといって、ご家族がすべての手続から離れなければならないわけではありません。
- 裁判にはできるだけ関わりたいけれど、法律的な対応は弁護士に任せたい
- 自分たちの気持ちは伝えたいが、手続きそのものはできるだけ専門家に任せたい
というように、ご家族がどこまで関わるのかを相談しながら進めることもできます。
国選被害者参加弁護士制度を利用できる場合もあります
弁護士費用が心配な場合には、一定の要件を満たす方について、国選被害者参加弁護士制度を利用できる場合があります。
経済的な事情から弁護士への依頼をためらっている場合には、自分が制度の対象となるかを確認してみることも大切です。
交通事故の被害者参加制度について、まずは弁護士にご相談ください
交通事故で大切な家族を失ったり、重大な障害が残ったりした場合、事故後もさまざまな問題に対応しなければなりません。
損害賠償の問題だけでも大きな負担となる中で、刑事裁判まで自分たちで対応することは、決して簡単なことではありません。
しかし、交通事故事件では、一定の要件のもとで、被害者や遺族が刑事裁判に関わることができる「被害者参加制度」があります。
大切なのは、「自分たちだけで刑事裁判に対応しなければならない」と考えないことです。
被害者参加制度を利用するかどうか、どのような形で刑事裁判に関わるのかについては、弁護士に相談しながら決めることができます。
- 被害者参加制度を利用できるのか知りたい
- 家族に代わって刑事裁判に関われるのか知りたい
- 刑事裁判には関わりたいが、自分たちの負担はできるだけ減らしたい
- 損害賠償についても一緒に相談したい
このような場合には、交通事故に精通した弁護士への相談を検討してみてください。
また、弁護士費用特約が利用できる場合には、契約内容に応じて弁護士費用等について保険金が支払われることがあります。
費用面が気になっている方も、まずはご自身やご家族の加入している保険に弁護士費用特約が付いているか確認してみるとよいでしょう。
刑事手続の進み方や被害者参加制度を利用できるかどうかは、事故の内容や被害者の状況、事件の進行状況などによって異なります。
「自分の場合はどうなのだろう」と迷ったときは、現在の状況を整理したうえで、専門家に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。














