示談後の損賠賠償請求が認められた事例(8級認定・判例紙掲載)

弁護士の桑原です。

先日、私の解決した交通事故事件が、交通事故や保険問題に特化した裁判例の情報誌である、「自動車保険ジャーナル」に掲載されました。(詳しくは交通事故専門の判例雑誌に解決した事例が掲載をご覧ください。)

今回は、この事件が、どのような内容であったのか、何が問題となったのかについて詳しく解説します。

事案の概要

福岡県在住の被害者が原動機付自転車を運転して道路を直進していたところ、駐車場から道路に進入しようとした4輪自動車と衝突し、転倒、受傷したという事故です。

争点

病院

今回の裁判で問題となった点は、主に2点あります。

1点目は、被害者がまだ治療中であったにもかかわらず、加害者との間で、少額で示談をしてしまい、その後、予想外に重傷であったことが判明し、手術や後遺障害の損害が生じたという点です。

一般的には、示談というのは、示談で約束した金額以外には、裁判上・裁判外を問わず、なんらの請求も行わないという約束をしますので、本件でも、示談が成立している以上、原則として、被害者からの請求は認められないことになります。

被害者は、手術や後遺障害の損害の賠償を求めていましたが、加害者側は、既に示談が成立しているから損害賠償義務はないと争いました。

2点目は、被害者からの損害賠償請求が認められるとしても、被害者が事故当時無職であったため、被害者に休業損害や逸失利益が認められるかという点です。

一般的には、事故当時無職であった場合、事故があってもなくても、被害者が無収入であることに変わりはありませんので、交通事故によって休業損害や逸失利益は生じないと考えられています。

裁判所の判断

判決

1点目について、裁判所は、「原告(被害者)は、本件示談をした時点では、入院を含む長期の治療が必要で、後遺障害が生じるような損害を予想できたとはいえず、本件示談において、後記のとおり認められる損害を予想していたとは認められない」として、「本件示談後に発生した手術や後遺障害の損害について、本件示談によって放棄したとはいえず、原告(被害者の)の相当な範囲で、それらの損害の賠償を被告(加害者)に求めることができる」と、示談後の被害者からの賠償請求を認める判断をしました。

一般論として、示談後の賠償請求が認められないことは前述したとおりですが、本件の具体的な事実経過からすると、示談によって、後遺障害の損害などについて一切賠償請求が認められないとすると、あまりにも被害者に酷な結果となる事案でした。

裁判では、示談に至った具体的な事実経過を詳細に主張立証したところ、当方の主張が認められました

2点目について、裁判所は、「原告(被害者)は、事故当時無職であったものの、就労の蓋然性はあったと認められる」と、事故による休業損害や逸失利益の発生を認める判断をしました。

事故当時無職であった場合、前述したとおり、一般的には、事故があってもなくても無収入に変わりはありませんので、休業損害や逸失利益は認められません。

しかし、本件では、当方は、事故当時はたまたま無職であったが、事故がなければ就労して収入を得ていた蓋然性があったと主張していました。

そして、具体的には、被害者の過去の就労歴や事故当時の具体的な就労見込み先などを立証し、裁判所も当方の主張を認め、事故がなければ就労の蓋然性があったものの、事故によって休業を余儀なくされた(あるいは逸失利益が生じた)と認定しました。

まとめ

弁護士桑原淳

今回の事案は、示談後に損害賠償請求が認められるか、事故当時無職であった者について休業損害や逸失利益が生じるのか、という難しい問題について、被害者側が勝訴した事案です。

既に示談が成立していた事案ですので、裁判前の段階では、相手方は請求に応じる意向は全くなく、そのままでは被害者も泣き寝入りせざるを得ない状態でした。

しかしながら、被害者は、身体的にも精神的にもかなり負担を抱えている状態で、このまま泣き寝入りするのはあまりにも不条理だと思い、なんとか救済の道を開かないといけない、と必死の思いで裁判に臨みました。

交通事故で示談の効力を裁判で争うというのはあまり例がありませんでしたが、最終的には当方の主張が認められる形となりました。

とはいえ、示談の効力を後々覆すのはかなり難しいのもまた事実です。

示談の前に一度専門家のアドバイスを受けることが大事だと改めて実感しました。

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