はじめに

交通事故によって膝に傷跡が残ってしまった場合、「この傷跡について何も補償してもらえないのでしょうか」と不安に感じる方もいらっしゃると思います。
特に、後遺障害の認定を受けられなかった場合には、「後遺障害にならない以上、傷跡については賠償してもらえない」と考えてしまうかもしれません。
しかし、自賠責保険の後遺障害等級の基準に該当しない傷跡であっても、傷跡が残ったことによる精神的苦痛などが慰謝料の増額事由として考慮される可能性があります。
今回は、実際に当事務所へ相談に来られた方の事例をもとに、交通事故で膝に傷跡・醜状痕が残った場合の賠償について解説します。
- 交通事故による膝の傷跡が後遺障害として認定される基準
- 後遺障害に認定されなかった傷跡でも賠償される可能性があること
- 醜状痕について慰謝料を請求する際に重要な事情
- 傷跡を薄くするための将来の薬代を請求できる場合があること
- 醜状痕について、必ずしも裁判をすればよいとは限らないこと
交通事故で膝に傷跡が残った場合、後遺障害に認定される?
交通事故によって膝に傷跡が残った場合、その傷跡の大きさや場所によっては、後遺障害として評価される可能性があります。
自賠責保険の後遺障害等級表では、下肢の露出面に「てのひらの大きさ」の醜いあとを残すものが第14級に定められています。
ここでいう「醜状」は、単なる傷跡だけに限られません。
傷あと、やけど、組織の陥没、色素沈着なども対象となり得ます。
そのため、膝に傷跡が残ってしまった場合には、単に「傷がある」というだけではなく、傷跡の大きさ、形状、色、場所などを具体的に確認することが重要です。
後遺障害の基準に届かなければ、賠償はゼロ?
ここが非常に重要なポイントです。
自賠責保険の後遺障害等級の基準は、あくまで自賠責保険における後遺障害認定の基準です。
そのため、傷跡が基準に届かず後遺障害等級が認定されなかったからといって、直ちに「その傷跡による精神的苦痛について、民事上の損害賠償が一切認められない」ということになるわけではありません。
実際に裁判例でも、自賠責保険の後遺障害認定基準には達しない醜状痕について、その部位や大きさ、目立ちやすさ、被害者の年齢や職業などを考慮し、慰謝料を認めた事例があります。
もっとも、後遺障害に認定されなかった醜状痕について、必ず慰謝料が認められるわけではありません。
そのため、「後遺障害非該当だったから諦める」というのも、「訴訟をすれば必ず賠償される」と考えるのも適切ではありません。
傷跡の具体的な状態や、被害者の方がどのような苦痛・不利益を受けているのかを踏まえて、請求方法を検討する必要があります。
後遺障害に認定されない膝の傷跡でも慰謝料が認められることがあります
先日、保険会社から送られてきた賠償額提示書を持って、一人の女性が当事務所に相談に来られました。(この方の事例は「後遺障害の認定基準に満たない傷跡を慰謝料に反映し、約130万円増額した事例」をご覧ください。)
その方は、交通事故によって膝に傷跡が残ってしまっていました。
相談の内容は、「交通事故で膝に傷跡が残ってしまったのですが、この傷跡については何も賠償してもらえないのでしょうか」というものでした。
保険会社から提示されていた賠償額には、傷跡が残ったことについて十分に考慮された形跡がありませんでした。
そこで、まず残っている傷跡について詳しく確認することから始めました。
膝に残った傷跡について、まずは具体的に確認しました
まず、相談者の方から膝に残った傷跡の写真を送っていただきました。
そして、
- 膝のどの部分に傷跡が残っているのか
- 傷跡はどのくらいの大きさなのか
- 色や形はどのような状態なのか
- どの程度目立つ傷跡なのか
といった点を確認しました。
醜状痕については、単に「傷跡があります」と主張するだけでは、その精神的苦痛を十分に伝えることができません。
どこに、どのような傷跡が、どの程度残っているのかを具体的に説明することが重要です。
傷跡が残ったことによる本人の苦痛も重要です
傷跡そのものの状態だけではなく、その傷跡が本人にどのような影響を与えているのかについても確認しました。
例えば、同じ大きさの傷跡であっても、普段から目につきやすい場所にあるのか、衣服で隠すことができる場所なのかによって、本人が感じる精神的苦痛は異なります。
実際の裁判例でも、醜状痕の部位、大きさ、色、他人からの目立ちやすさ、本人が気にしている程度、化粧などで隠すことができるか、年齢や職業など、さまざまな事情を総合的に考慮して慰謝料が判断されています。
そのため、今回のケースでも、相手方に対して、「どこに、どのような傷跡が残っているのか」だけではなく、「その傷跡によって本人がどのような精神的苦痛を受けているのか」を具体的に主張することにしました。
必ずしも裁判をすればよいとは限りません
醜状痕については、「裁判をすれば認めてもらえるのではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、自賠責保険の後遺障害認定基準に達していない醜状痕についても、裁判所が慰謝料を認めた裁判例は存在します。
一方で、裁判例によって判断は異なります。
そのため、傷跡が残っているというだけで、裁判をすれば必ず賠償が認められるわけではありません。
今回のケースでは、傷跡が誰から見ても明らかに目立つという程度には至っていませんでした。
そのため、裁判した場合には、傷跡について賠償が認められない可能性もありました。
そこで、今回は裁判をするのではなく、保険会社との交渉によって、傷跡が残ったことを可能な限り賠償額に反映させてもらうという方針で進めました。
交通事故では、その事案でどのような請求をすれば、被害者の方にとってより適切な解決につながるのかを検討することが重要です。
醜状痕を慰謝料の増額事由として主張しました
今回の交渉では、膝に傷跡が残ったことを、慰謝料を増額する事情として具体的に主張しました。
その結果、醜状痕が残ってしまったことを慰謝料の増額事由として認めてもらうことができ、入通院期間を基準として算定される金額よりも高い慰謝料を獲得することができました。
醜状痕については、後遺障害等級が認定されていない場合でも、その存在やそれによる精神的苦痛を具体的に主張することで、慰謝料の算定において考慮される可能性があります。
厚生労働省の資料でも、外貌醜状について逸失利益が否定された場合に、その不利益を慰謝料の算定において考慮する裁判例が多いことが紹介されています。
傷跡を薄くするための薬代についても交渉しました
今回の相談者の方には、もう一つ希望がありました。
それは、残ってしまった傷跡を少しでも薄くするための処方薬を今後も使用したいというものでした。
そこで、医師から、今後一定期間にわたって薬を購入する必要があることを記載した書類を取得していただきました。
そのうえで、その書類を相手方に提出し、今後必要となる薬代についても賠償額に含めてもらうよう交渉しました。
その結果、将来の薬代についても賠償額に含めてもらうことができました。
もちろん、将来の治療費や薬代が常に認められるわけではありません。
今後も治療や薬の使用が必要であること、その必要性や期間などを医師の資料によって説明できるかどうかなど、個別の事情を踏まえて判断する必要があります。
交通事故の傷跡については「後遺障害にならなかったから」と諦めないことが大切です
交通事故によって膝などに傷跡が残ってしまった場合、まず確認したいのは、その傷跡が後遺障害等級の認定基準に該当するかどうかです。
しかし、仮に後遺障害等級が認定されなかったとしても、それだけで傷跡についての賠償がすべて否定されるわけではありません。
傷跡の部位や大きさ、色、目立ちやすさ、本人が感じている精神的苦痛、年齢や職業など、具体的な事情によっては、慰謝料の算定において考慮される可能性があります。
また、今回のように、傷跡を薄くするために今後も薬を使用したいという事情がある場合には、その費用についても検討する余地があります。
「後遺障害に認定されなかったから、もう何も請求できない」とすぐに諦める必要はありません。
一方で、すべてのケースで慰謝料の増額や将来の薬代が認められるわけでもありません。
だからこそ、実際にどのような傷跡が残っているのかを確認したうえで、その傷跡が本人にどのような苦痛や不利益を与えているのかを具体的に整理し、事案に応じた請求方法を検討することが重要です。
交通事故の賠償額について保険会社から提示を受けたものの、「この金額で本当にいいのだろうか」「傷跡について何も考慮されていないのではないか」と感じている場合には、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士が保険会社からの提示内容と事故による損害を確認することで、見落とされている損害や、交渉によって賠償額に反映できる可能性のある事情が見つかることがあります。














